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今日も日曜日

毎日日曜だったらいいな。今日も日曜の気分で綴ります。

イギリスはEU残留か離脱か~ゼロからわかるまとめ 中編

前編では、イギリスのEU残留か離脱かを問う国民投票について、なぜ国民投票が行われることになったのか、イギリスの代表的な政治家の立場はどうか、現時点の世論調査結果はどうかといった点を見てきました。

ichikawa-ken.hatenablog.com

それでは前編に記載したとおりにBBCで放送された「Britain and Europe: For Richer or Poorer」の内容を紹介しつつ、この問題を考えていきたいと思います。

 

残留派と離脱派が主張する数字の検証

残留派が主張する一日当たり5000万ポンドの支出

ボリス・ジョンソン前ロンドン市長をはじめとした離脱派はキャンペーンの移動にこんなバスを使っています。

f:id:ichikawa_ken:20160603213759p:plain(イギリス紙 the guardian より引用)

このバスには「We send  the EU £50 milion a day」と書かれており、これはつまり、「イギリスはEUの分担金を払うために毎日5000万ポンド(80億円。以下1ポンド=160円で換算。)ものお金を支払っている。そんなのもったないない。自分たちのために使うべきだ」と主張しているわけです。

これについてBBCのキャスターは、ボリス・ジョンソンに切り込みます(このエントリー中の訳は私が意訳してますので、多少正確さがかけているかもしれませんが、ご容赦ください。)。

キャスター:「あなたは毎週3.5億ポンドものお金がEUに支払われていると毎日吹聴しているが、このお金にはEUがイギリスのために使わっているものも含まれているはずなので間違いではないですか?」

ボリス・ジョンソン:「あなたの行ってることは正しい。でも、我々が支払っているお金の半分は私たちが再び見ることもなく、ギリシア支援、たばこ農場、スペインの闘牛などに消えていく。残りのお金だって支払いっ放しだ。そもそも私は、私たちが支払ったお金を私たちがコントロールできないことがおかしいと言っているのだ。」

これこそが、まさに離脱派の主張「Let's take back control」です。離脱派の人たちは、EUにあれこれ決められて、イギリスが自分で政策を決められないことに不満を強めているのです。ここは大きなポイントです。

話をイギリスがEUにどれほど負担しているのかということに戻します。イギリスの独立機関である金融研究所のダイレクターは、「イギリスに戻ってきているお金も含めて考えると、純粋な負担は毎週1.5億ポンド(240億円)であろう」と述べています。年間で計算して1.2兆円の負担ってなかなか大きいですよね。

ちなみにイギリスの国家予算は7600億ポンド(120兆円)くらいです。

残留派が主張する各家庭で毎年4300ポンドの損失

 残留派も、離脱派に負けず劣らず、統計を利用して自分たちの主張の確からしさをアピールしています。残留派はEUを離脱した場合に、一家庭当たり毎年4300ポンド(69万円)の負担が生じると述べています。これには、EUを離脱した影響が経済に及んだ結果、賃金の低下、物価の上昇、住宅ローンの増加(金利上昇)、住宅資産価値の低下などが見込まれるところ、これらを総合したものだそうです。

これについて前出の金融研究所のダイレクターは「この数字は現在との比較ではなく、残留した場合に想定される未来との比較であることに注意が必要である。」と述べています。つまり、残留した場合の未来も、離脱した場合の未来もどちらも推定なので、推定と推定の比較であるため、二重に不確かさが生じているということです。

ここでもまたBBCのキャスターはオズボーン財務大臣に挑みます。

キャスター:「これはあくまで予想ですよね。不確かな推定に過ぎない。こんな数字を国民に説明するなんて、国民へのリスペクトが欠けているんではないですか?」

オズボーン:「この数字はIMF(国際通貨基金)や金融研究所等の統計を基に算出した確かなものだ。国民はできる限り多くの情報を知りたがっている。」

BBCのキャスターは常にけんか腰なので観ていてドキドキしました

シングルマーケットで得るもの、失うもの

シングルマーケットで得るもの

イギリスがEUに留まる最大のメリットは、EUに加盟する国々と形成するシングルマーケットの恩恵を受けられることです。EU域内は、人、物、金、サービスの移動に制限がありませんので、加盟国で一つの市場を形成していると言えます。EU加盟国同士で貿易をしても関税はかかりませんし、人もお金も自由にEU域内を移動することができます。

同番組でシングルマーケットを説明するために、まずイギリスでチーズ工場を経営するおじさんが登場させます。

チーズおじさん:「私たちの作ったチーズをフランスの人たちがたくさん買ってくれる。もし、EUを離脱することになると、多くの顧客を失うことになるかもしれない。また、うちは多くの従業員がEU域内の他国からの移民であり、もし彼らが働けなくなってしまったら、工場は立ちいかなくなる。」

このおじさんは典型的なシングルマーケットで恩恵を受けている人です。

現状はシングルマーケットの内側にいるがゆえに関税なしで商品を輸出できるし、イギリスの恵まれた労働環境を目指してきた低賃金で働く移民を労働力にも使用できる

しかし、もし、EUを離脱することになれば、当然、EU域内の国として受けていた待遇が受けられず、輸出にも高い関税がかけられるかもしれず、移民の受け入れもなくなり安い労働力を失ってしまうかもしれないということです。

シングルマーケットで失うもの

次に、ホバークラフト工場を経営しているおばさんが登場します。

ホバークラフトおばさん:「EUのルールが私たちの商売を邪魔している。例えば、以前、ブラジルから大きな取引の話があったが、ブラジルがEUと貿易協定を結んでいなかったため高額な関税が発生することが判明し、その取引は消滅した。その取引がうまくいけば5万ポンド(800万円)の売り上げになるはずだったのに、彼らに5万ポンドの税金が追加でかかることが判明してダメになってしまったのだ。私達はEUのルールの犠牲になっている。このルールを変えようとしても、あきらめろ、他のことを考えろと言われる。なぜ私達は最も大きな市場の一つであるブラジルとの取引をあきらめなければならないのか。」

次に、イギリスで砂糖を生産する大企業の役員が登場します。

砂糖会社役員:「私達は砂糖の原料であるサトウキビをEU域外から輸入しているため、船一隻当たり350万ポンド(5.6億円)の関税を支払っている。その一方で、てんさいを原料に砂糖を生産している会社は、年間1.6億ユーロ(192億円)もの補助金をEUから受けている。これはあたかも私達がライバル会社に金を補助しているようではないか。しかし、EUのルールを変えることはできない。なぜなら、てんさいを生産している国は19か国に対して、サトウキビは2、3か国しかない。EUの中ではマイナーな意見が通ることはないのだ。」

この人たちは、EUが定めたルールのために損をしている人達の例です。

シングルマーケットに参加するためには、EUが定めるルールにイギリスは従う必要があるのですが、当然ながらイギリスの都合でEUのルールを定めたり、変更したりすることはできません。そうすると、EU全体の利益のために犠牲になる人や組織があり、そうした人達はEUを離脱して、自分たちでルールを作るべきだと主張したくなります。この人たちは離脱派の主張する「Let's take back control」に共鳴するのです。

他方、これに対して大手スーパーマーケットチェーンのトップは、「ブリュッセル(EU本部がある場所)で作るルールより、ウェストミンスター(イギリスの国会がある場所)で作るルールが優れているという保証はない。」と冷ややかに正論を述べます。 

政治家等の見解

BBCのキャスターからEUを離脱した場合の貿易上のリスクについて問われた、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長とオズボーン財務大臣は以下のように答えます。

ボリス・ジョンソン:「EUを離脱したときに経済的な影響なんて無視できる程度のものだと思う。EUがイギリスの商品やサービスを差別することなんて全体のバランスから見たら取るに足りないものだ。」

オズボーン:「EUを離脱したイギリスに対して、EU域内の国と同等に扱うはずがない。EUに予算も払わず、移民も受け入れないのに。コストを払わずにEUとこれまで通りに付き合えるということはあり得ない。離脱派の議論はまやかしだ。」

ボリス・ジョンソンの発言、ちゃんと考えてるのかなーって不安になります。この議論はオズボーンに理があるように思えます。確かにコストを払わずに、利益だけ得ることは無理なような気がします。

加えて、オズボーンには心強い味方もいます。

オバマ大統領:「EUに留まるなら、イギリスは影響力、権限、経済力をより強めるだろう。だから、イギリスに留まってほしいんだ。」

クリスティン・ラガード(IMF):「もし、離脱するならイギリスに成長はないでしょう。仕事は減り、収入を失い、物価は上がり、短期的にそうした影響が強まるでしょう。だから私は離脱に否定的なのです。どのくらいネガティブな状況が続くかは、EUとの貿易協定などの交渉に要する期間次第でしょう。私には離脱のポジティブな要素は一切見えないが、ネガティブな要素はたくさん見える。」

しかし、こうした見解に対して、イギリス最大のパブチェーンの代表が述べたことが印象に残りました。

パブチェーン代表:「イギリスとEUの取引では、売るよりも買う方がはるかに多い。こういう場合に最高の取引ができるというのは、誰も教えてくれないけど常識だよ。EUからの離脱がリスクだというが、私からすればEUのルールをコントロールできないことこそがリスクだと思う。」

確かに、イギリスとEUの間の2014年の輸出額は1480億ポンド、輸入額は2240億ポンドと、イギリスは760億ポンド(12兆円)も多く買っている計算になります。確かに多く買っている方にイニシアティブがある交渉ができるということはあり得る議論のように思えます。

 こう考えるとボリス・ジョンソン前ロンドン市長が経済的影響は無視できるほどのものだと言ったのも、理屈がないわけではないんだなと思えます。

しかし、イギリスがEUを離脱しても、EUとこれまでどおりの貿易できるようであれば、イギリスの後を追う国が出てくる可能性もあり、EUは加盟国に示しをつけるという意味合いも考えざるを得ないでしょう。イギリスにとって、やはりこの交渉は難しいものにならざるをえないかもしれません。

 

長くなってしまったのでとりあえず中編はここまでとしたいと思います。

後編ではヨーロッパ最大の金融都市であるロンドンへの影響から始めたいと思います。

 

それでは、また日曜に!

 

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